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奥州市地域おこし協力隊・太田さん、鋳物の街 味覚でも発信

奥州市地域おこし協力隊・太田さん、鋳物の街 味覚でも発信

奥州市地域おこし協力隊・太田さん、鋳物の街 味覚でも発信
プレオープン日、「鉄瓶婆」の姿で接客する太田和美さん(左)

 地元住民に愛された老舗喫茶店が、南部鉄器の魅力を発信する喫茶店に生まれ変わってオープンーー。鋳物産業振興を担当する奥州市地域おこし協力隊の太田和美さん(36)=仙台市出身=が店主を務める「鐵喫茶a-h●●(アウン)」が、奥州市水沢羽田町宝生にお目見えした。地元住民らに長年愛されてきた喫茶店の経営者から事業承継し、市外から訪れた人も含めて集える場を創出した。協力隊活動と事業承継を並行させる前例がほとんどなく、苦労した面もあったが、太田さんは「鋳物を見たり触れたりするだけでなく、味覚の面からも体感できる店にしていきたい」と意欲を燃やす。
 太田さんが喫茶店として開いた店舗は、6月末まで菊池須美子さん(72)が経営していた「スナック喫茶チロル」。1975(昭和50)年に開業して以来、約半世紀にわたり地元住民や鋳物職人らに愛されてきた。昨年6月の協力隊就任翌月に、初めて「チロル」を訪れた太田さんは、店の持つ価値をすぐに感じ取った。菊池さんから店を閉じる話を聞き、南部鉄器の良さを取り入れた喫茶店にしようと事業承継を決意した。
 岩手が誇る伝統産業・南部鉄器が生産される「鋳物の街」で、大小の鋳物関連事業所がひしめく羽田町。JR東北新幹線・水沢江刺駅開業後は地域の玄関口としての一面も加わった。しかし人口減少によりかつてのにぎわいは薄れ、町の中心部にあった小売店や飲食店は次々閉店。地域を代表する春の祭典だった「羽田町火防祭」も昨年廃止が決定した。一方、現代生活に溶け込む新たな南部鉄器製品が誕生し若手職人も活躍するなど、決して暗い話題だけではない。
 「この地域の人たちにとっては、鉄瓶や鉄器を使ってお茶や料理をつくること自体、特段珍しいことではないが、東京などでは南部鉄器を使った料理であることをわざわざアピールする店もある」と太田さん。味覚を通じて南部鉄器の魅力を伝えるべく、菊池さんから受け継いだ人気メニュー「ホルモン(もつ煮)」を定番化させた上で、フレンチトーストやナポリタンなど、南部鉄器で調理したメニューを拡大していく考えだ。
 店舗経営はもちろん、事業承継という取り組み自体も初めて。協力隊の先輩たちの中にも事例がほとんどないため苦労した点も多かったが、支援機関などのアドバイスも受けながら実現。資金調達はネットを通じて協力を呼びかける「クラウドファンディング」で行った。
 今月12日のプレオープン日、太田さんは南部鉄器のイベントなどで自ら演じている「鉄瓶婆(てつびんばばあ)」の姿で接客。地元住民らが早速足を運び、太田さんの新たな挑戦と開店を祝った。
 営業開始は28日。営業時間は午後4時から同9時だが、月・金・土は日中(午前11時―午後2時)も営業する。定休日は水曜と日曜。
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